健康ひとくちメモ認知症の理解と予防〜家族と地域のサポート〜

 皆さんは、認知症についてどのくらいご存じでしょうか?
 超高齢社会となった現在、認知症は誰でもかかる可能性のある疾患です。治療によって症状を改善できるものや、薬によって進行を遅らせることができるものもあるため、早期発見、早期治療が重要です。また認知症の方への支援や地域の取り組みなどについて知ることも大切です。

認知症とは

 認知症は、糖尿病や高血圧のように検査の数値で診断することができない疾患です。日常生活に支障をきたすような認知機能の低下がある状態を「認知症」と呼びます。また、加齢による「もの忘れ」と認知症の「記憶障害」では症状が異なります。

認知症の症状

 認知症は進行性で次第に症状が進んでいきます。

疑いの段階
  • 以前より不安を口にするようになった
  • 遠いところ、知らないところに行きたがらなくなった
  • 今までやっていたこと、外出や買い物、料理などをしなくなった
認知症初期
  • 同じことを何度も繰り返して聞く
  • 約束を複数回忘れる、間違える
  • 探しものが多くなり、しばしば他人・家族のせいにする
認知症中期
  • 直前のことも忘れる
  • 服が選べない
  • 親戚、兄弟のことがわからなくなる
  • 字がうまく書けない
  • 入浴を嫌がる、トイレを失敗する
  • 妄想が見られる、徘徊する
認知症後期
  • 排尿、排便がひとりでできない
  • 使い慣れている物が上手く使えない
  • 日常生活全般で多くのことに介護が必要

認知症の種類と特徴

アルツハイマー型認知症

  • 脳の中に異常なタンパク質としてアミロイドが溜まることが原因
  • 全認知症の約2/3を占める
  • ゆっくりと発症し進行する
  • 短期記憶の障害で始まり、時間や場所の認識が不確かになる

血管性認知症

  • 脳の血管が詰まったり、出血したりすることが原因
  • 頭部の画像検査で脳血管障害がみられる(脳梗塞など)
  • 高血圧や糖尿病などの生活習慣病の人が多い
  • 認知機能が急にもしくは階段状に低下する
  • 集中力の低下、意欲低下、うつなどの症状がみられる

レビー小体型認知症

  • レビー小体とよばれる異常なタンパク質が脳に溜まることが原因
  • 見えないはずのものが見える
  • 表情が乏しい
  • 手がゆっくり震える
  • 歩行が遅く不安定で、転びやすい

 そのほかにも、「軽度認知障害」というものがあります。特徴は以下の通りです。
・年齢に比べて記憶力が低下している
・日常生活に大きな支障はない       
 軽度認知障害の方のうち、年間1割~2割くらいの人が認知症になるといわれています。     

         

治療法 ~ 治療薬の発展

 近年、日本でもアルツハイマー型の認知症の治療に「アミロイドベータ抗体薬」(レカネマブやドナネマブなど)という点滴薬の使用が承認されました。これは、原因物質である脳のアミロイドを取り除き、認知機能の低下を遅らせる効果が期待され、アルツハイマー病の治療に大きな変化を与えています。


 その他、血管性やレビー小体型認知症など、種類に合った治療薬を使用します。
 認知症はまだ完治が難しい疾患で、薬によって認知機能の低下を抑える治療をおこないます。
 そのため、なるべく早期に病院を受診しましょう。

認知症の方との接し方


 認知症の方と接するときは、「自分は味方であること」を意識し、信頼関係を築くことが大切です。表情や声色を穏やかに、相手のペースに合わせてゆっくり、簡潔に、明瞭に説明するようにしましょう。
 また、一緒に暮らしているご家族の方との気持ちがすれ違ってしまうと、妄想や徘徊などの症状が悪化することがあります。例えば、できないことを責めるような口調になってしまったり、非難するような表情をしてしまうと、「この人はわかってくれない」と不安になり、自分の居場所がないと感じるようになってしまいます。毎日一緒に過ごす家族にとっては簡単なことではありませんが、少しずつ寄り添い、相手の気持ちを理解しながら関係を築いていくことが大切です。

地域の取り組み

 認知症を家族だけで対応するのは大変です。地域の支援を活用しましょう。三鷹市の場合、かかりつけ医、在宅認知症相談機関(地域包括支援センターなど)、認知症専門の医療機関などが連携してサポートを行っています。また、本人が病院にかかりたがらない場合は、地域包括支援センターや市区町村の高齢者支援課などに相談に行くと、そこを通じてかかりつけ医や認知症専門医療機関につなぐことができます。

 なお、当院は北多摩南部地域の東京都認知症疾患医療センターとして、診療や地域との連携、啓発活動などを行っています。

認知症の危険因子と予防

 認知症の生活習慣因子として、次のようなものがあります。

40代~ 糖尿病、高血圧、脂質異常、喫煙、中年期の肥満  
 → これらの危険因子は早めに取り除くことが大事です
80代頃 閉じこもりや不活発、対人交流の減少、うつの傾向、頭部外傷を負った転倒など
       
 認知症にならないために日ごろから心がけることとしては、次のようなものがあります。
  • 軽いジョギングやウォーキングなど、体を動かすこと
  • 趣味の活動(友人と楽しく会話しながら)
  • バランスのとれた食事(青魚、緑黄色野菜、果物、海藻、カレーなど)
  • 生活習慣病はきちんと治療すること

まとめ

 ある程度の年齢になると認知症になるのは仕方がないことで、いつか自分もそうなる可能性があります。もし、自分や家族がなったとしても、地域のサポートを活用して、安心して暮らしていただけたらと思います。日々の暮らしの中で、自分自身の変化や家族や身の回りの人の異変にも気づくことが大切です。気になる症状がある場合は、ぜひ一度、相談窓口に行って検査を受けてみましょう



2025年3月
杏林大学医学部高齢医学教室
教授 神﨑 恒一
(医学部付属病院 高齢診療科もの忘れセンター)
(※動画で市民講座 学びの杜 2024年度「認知症の理解と予防〜家族と地域のサポート〜」より)